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セクション2&3

(連載第3回)セクション2&3

 

セクション2

 セクション2は、米国およびカナダの行政・監督省庁についての説明なので、日本の皆さんにはほとんど関係のないことだと思います。これらの国で行われた研究論文を読むときの参考情報としてお役に立つかもしれません。

セクション3

手指衛生製品を自施設で評価選択するために必要な知識と留意点がまとめられています。考慮すべき特徴は、組成、剤型(ゲル、泡、液体)、そして供給法(ディスペンサー等のこと)とされており、それぞれについて詳細に解説されています。

組成においてはしばしば有効成分のみが注目されますが、非活性成分も考える必要があると述べられています。ところで、このガイドの記述の中でたった一箇所気になるところがあるとすれば、それは23ページにあります。アルコールとクロルヘキシジンの活性について述べた項ですが、アルコールは「芽胞形成菌やノンエンベロープウイルスに対してはほとんど効果がない」と書き、クロルヘキシジンは「ほとんどの非芽胞形成菌やエンベロープ型ウイルスに効果を示す」と表現されています。意味は両者とも完全に同じことを言っているのですが、かたや否定的な表現を使い、もう一方は肯定的に述べているということで、心理学的な騙しの手法で使われる表現法です。読者に誤解を与えるなあ、という印象を翻訳者として持ちましたが、原文に忠実に訳しておきました。

トリクロサンについては、本ガイドの出版時の情報に基づいてFDAが消費者向け製品で有益性を審査中との記載がありますが、これは2016年9月に有益性を認められないと決定されました。

製品の剤型

消毒薬の剤型(液体やゲルなど)の特徴が表にまとめられていますが、これも少々問題があるまとめ方だと思われます。コメントにそれぞれ書かれてある内容は、液体は難点のみ、ジェルは利点と難点の併記、泡は利点でも難点でもなく泡の作り方でしかなく、ワイプは利点のみです。出来れば全項目について利点難点併記でまとめていただきたかったかなと思います。是非皆さんのご施設でそれぞれ試してみていただき、いいところ悪いところを評価いただきたいと思います。

供給法

原文では“Delivery”という言葉を使っており、供給法と訳しました。ポンプやディスペンサーなど、容器と吐出方法を合わせて議論しています。自動ディスペンサーは有効性が確認された量を常に正確に使うことができるという利点がある一方、ポイントオブケアでの遵守率向上を目指すには、現場で使いやすい形状やサイズを選ぶ必要があるため、それぞれの環境や必要な技術をよく理解して選ぶことが重要です、と書いてあります。

製品試験

米国でも日本でも、医療施設で利用される手指消毒剤は医薬品であり、効果効能をはっきりと示さないと承認されません。そのための試験法が26ページの表2.3にまとめてありますが、この中で特に重要なのは、in vitro(試験管内実験、人を使わない)試験のTime-Killと呼ばれるものと、in vivo(生物を使った試験、この場合は全て人を使っている)試験の中のEN 1500とASTM E-1174、EN 12791、そしてASTM 1115です。in vivo試験4種のうち、前者は通常病棟等で行う医療従事者の手指衛生向けの製品の評価系で、後者は手術前の手指衛生評価系です。ENはヨーロッパの企画で、ASTMは米国の試験方法です。従って例えば米国FDAはASTMの試験法に沿ってその適合基準値を設定しています。日本では環境感染学会が2011年に手指衛生消毒剤の評価基準「生体消毒薬の有効性評価指針:手指衛生2011」を作成しており、上記試験法のいずれかで評価するようにと勧告しています。

http://www.kankyokansen.org/modules/publication/index.php?content_id=7

このガイドライン中にそれぞれの試験法の概要がまとめられていますので、ご参照下さい。

ちなみに、FDAの適合基準は「Final Monograph (21 CFR part 333): Topical Antimicrobial Drug Products for Over-the-Counter Human Useで定められています。これはこれまで長く暫定版(1994年作成)でしたが、このたびようやく2018年に全面改訂され、最終版となる予定です。このときに、ASTM E-1174およびASTM 1115のいずれにも採用されていた「消毒の活性持続性」が除外されることになっています。これは、たとえばE-1174の場合1回消毒よりも消毒10回後の方が効果が高い(活性物質が手掌上に残存蓄積している)ことを求める、といった部分です。

製品の現場試験

これは非常に重要です。日本の医療施設で使われる手指衛生剤の多くは、有効成分としてエタノールを含有しており、有効性としてはほとんど変わりないと考えられます。その一方で非活性成分は多岐にわたり、その組み合わせによって使いやすさや好みが分かれます。手指衛生遵守率を上げるためには出来る限り実際の利用者の使いやすいものを採用頂いた方がいいのですが、とはいえ全員の好みに合わせることは困難です。従って、客観的な指標による製品試験を現場で実施し、その結果を定量的に解析して製剤を選んでいただくことが重要になります。

WHOのガイドラインに附属するツールには、ひとつの製品を評価する場合と、2以上の製品を比較する場合との2種類の方法が作成されており、40人のボランティアによる臨床試験として細かく設定されています。

http://www.who.int/gpsc/5may/tools/evaluation_feedback/en/

一方APICガイドに27ページには質問表のみが掲載されていますが、このように定量化できる質問表を用いた調査を院内で広く実施することで、製品選択結果に対する説得力が出てくると思います。いずれの場合も、「客観的」と「定量化」がキーワードになります。

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