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手術時手指消毒

手術時手指衛生法

1. 日本のガイドライン

日本環境感染学会 生体消毒薬の有効性評価指針:手指衛生2011

手術時手指衛生とは: 手術前に医療従事者(手術スタッフ)が行う手指衛生であり、手指常在菌叢 resident skin flora を一定水準まで低減して、術中着用している滅菌手袋が万一破損しても、手術野汚染を防止する、あるいは、最小限に食い止めることを目的とする。

生体消毒薬の試験方法としては、欧州とアメリカ合衆国で2つの流れがあることを勘案し、製品の使用目的(用法)および期待される効果などに応じて、欧州標準化委員会(CEN)の欧州連合欧州規格(EU-EN)における標準試験法、およびアメリカ食品医薬局(FDA)の暫定的最終モノグラフ(US-TFM)に規定される、アメリカ材料試験協会(ASTM)の標準試験法、のいずれかに準じた試験方法を採用して国際化を図ることを基本方針とする。

評価法名称 方法 判定基準
EN12791 (CENが定める手術時手指衛生消毒薬評価法) メーカー推奨量で最長5分間ラビング(対照:3mL 2回、3分間ラビング) 即効性(消毒直後)
持続効果(3時間)
⇒対照(60% プロパノール)より劣らない
ASTM E1115 (ASTMが定める手術時手指衛生消毒薬評価法) in vivo(グローブジュース法)
Day 1:
・消毒1分後:1 log reduction
・消毒6時間後:ベースライン菌数を上回らない。
Day 2:
・消毒1分後:2 log reduction
・消毒6時間後:ベースライン菌数を上回らない。
Day 5:
・消毒1分後:3 log reduction
・消毒6時間後:ベースライン菌数を上回らない。
in vitro
 抗菌スペクトラム
 最少殺菌時間(Time kill)
 耐性菌出現に関する評価

2. 米国のガイドライン

1994年発行、FDA TFMによると、手術前に使われる手指消毒薬は以下のタイムポイントで基準を満たさなくてはならない。

a) 消毒直後(即時効果)、b) 消毒後手袋着用6時間後(持続効果)、c) 複数回使用した5日後(累積効果)。

3. 欧州のガイドライン

対照とするn-プロパノールに劣らないこと。消毒直後の即時効果と、低袋着用後3時間の持続効果のみが要求され、累積効果は見る必要がない。

4. WHOのガイドライン

手術用スクラブ法と擦式アルコール消毒とを比べると、アルコールの方が殺菌効果が高いことが、いくつかの研究によって確認されている。さらに、アルコールは素早く効果的に殺菌するため、手指上の常在菌が元のベースラインに戻るまでに6時間以上かかることも確認されており、アルコールベースの消毒薬が推奨されるべきである。

アルコール擦式手指消毒剤による手術前手指消毒法 [PDF:975KB]

その他、WHOがスクラブ法よりもアルコール擦式法を、手術全消毒法として推奨する理由は以下の通りである。

  • CHGを用いたスクラブ法によって、皮膚の障害や皮膚炎の報告が多い。
  • スクラブ法は洗い流すために水道と流しを必要とするが、病院の水道周りからP. aeruginosaが分離されたとする報告が数多くある。
  • 最近のランダム化対照試験では、ブラシの利用によってより効果的に細菌を洗い落としたことを示す証拠は得られなかった。
  • アルコールベース消毒薬が推奨されるという結論は得られたものの、どういった組成が最適なのかはまだ研究が必要であると、ガイドラインを作成したWHO専門家パネルは結論している。60% n-propanolよりも劣らないこととする消毒効果の評価指標は、n-propanolが実際の感染防止に効果的であるとするエビデンスが不足していることから、指標として適当でないとガイドライン中記載している。

5. アルコールベース消毒薬の選択基準

日本では、クロルヘキシジン(CHG)含有製剤が主流です。
米国GOJO社ではアルコール手指消毒剤と4%CHG(スクラブ法)、および1%CHG含有アルコール消毒剤とを、ボランティアを対象として比較試験しました(参考文献3)。

<実験手法>
それぞれの製剤あたり19人のボランティアを配置した。製剤はランダムに割り当てた。
ベースライン菌数の測定:
腕の2/3を流水で30秒洗う(この間爪と甘皮をネールクリーナーで洗浄)。
⇒ 手と腕を5mLの非抗菌石けんで30秒間洗う(よく泡立たせるように指示)。
⇒ 流水で30秒間すすぐ。
⇒ グローブジュース法で手に存在する菌数を測定する。

5日間のテスト期間中、合計11回手指衛生を行う。
1日目:1回
2,3,4日目:それぞれ3回ずつ
5日目:1回

手指消毒薬の評価試験結果:
img_surgery

<結論>

  • 一日目の消毒直後、および6時間後では、CHG含有アルコール、CHGスクラブ、そして70%アルコールの全てがFDA基準を達成した。しかし、一日目の消毒直後の殺菌効果は、CHGスクラブよりもアルコール製剤の方が勝っていた。 ⇒ 即時的な殺菌効果は、WHOガイドラインでまとめられているように、アルコール消毒の方が高い。
  • 5日目においては、4%CHGによるスクラブ法のみFDA基準を達成していた。

<そのほかの注意点>

  • 上記以外の研究でも、消毒直後の殺菌効果はアルコールの方がCHGよりも高いことは確認されている。また別の研究では、アルコール消毒は4%CHGよりも3時間後の殺菌効果も高いことが示されている。(文献4)
  • CHGは陽イオン性物質なので、陰イオン性の普通の石けんなどで容易に不活化される。CHGの残存効果は、通常の業務や生活中では実験で得られたほどではないと考えられている。

6. 結論

  • 70%濃度アルコールのみの製剤でも、初日の消毒直後および手袋着用6時間後の殺菌効果は、FDA基準を満たしています。
  • GOJO MHSはEN12791試験を実施しています。3mLずつ適用し90秒間ラビングすることで評価基準を満たすことが示されました。
    添付のポスターは、WHOガイドラインに掲載されている消毒手技の図を、日本語に翻訳したものです。これに沿った手技と、MHSで確認された量(90秒間乾かずにラビングできる量)で消毒を実施してください。

参考文献

(1) 日本環境感染学会 生体消毒薬の有効性評価指針:手指衛生2011
http://www.kankyokansen.org/modules/publication/index.php?content_id=7
(2) WHO guidelines on hand hygiene in health care
http://www.who.int/gpsc/5may/tools/9789241597906/en/
(3) AORN J. 2014 Dec;100(6):641-50. doi: 10.1016/j.aorn.2014.03.013. Epub 2014 Nov 22.
Comparative efficacy of alcohol-based surgical scrubs: the importance of formulation.
Macinga DR, et al.
(4)Infect Control Hosp Epidemiol. 2001 Oct;22(10):635-9.
An in-use evaluation of an alcohol-based pre-surgical hand disinfectant.
Bryce EA, et al.