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感染症トピックス

11月のトピックス - 薬剤耐性菌と結核コントロール

カテゴリー:多剤耐性

2015/11/27

 The Lancet誌で現在online first 公開されている特集の中に以下の2件があります。
(1)Series
Access to effective antimicrobials: a worldwide challenge
(2)Series
Controlling the seedbeds of tuberculosis: diagnosis and treatment of tuberculosis infection

 (1)は薬剤耐性菌のコントロールについて論じたもので、5つの総説と3つのコメントで構成されています。主題は、動物に使われている大量の抗生物質をコントロールしないと臨床の問題は解決しないということと、途上国・新興国での対策をどうするか、の2点です。問題提示があり、対策にはこれが必要という議論はあるものの、いまだほとんどどこにも解決策がないという現状が明らかにされています。もっとも興味深かったのは、サーベイランスの重要性を述べながら、世界のどこでもほとんど機能していないという部分でした。

 感染症の流行に根本的に対処するもっとも効果的で、同時に最も難しい問題は、レゼルボアの分析とコントロールです。レゼルボアとは、症状なく病原菌を維持しているもののことで、インフルエンザなら鴨などの水禽類、デング熱ならネッタイシマカやヒトスジシマカ、結核なら潜在性結核を持っている人です。薬剤耐性菌なら軽い症状を示すもしくはほとんど症状を表さずに保菌している人や、地域によっては抗生物質を与えられた家畜を指します。

 この進歩した技術に囲まれた現代において、症状ベースではない、遺伝子ベースのサーベイランスによって、周りに何が存在しどのように動いているのかを把握することは、技術的にはそれほど難しいことではありませんが、資金と人手がかかります。(1)のシリーズ内の総説の一つには、慢性的な資金不足(underfund) であることと、臨床現場で耐性菌のデータを取って公開するのはどこの病院も嫌がるので、現実化されていないと書かれていました。

 これと対比して結核のシリーズ(2)ではその冒頭、「もし根絶を目指すなら、レゼルボアもしくは感染症の温床(seedbeds)の封じ込めが必須である」と述べられていました。
今可能かどうか、問題があるかないかは別にして、本気で感染症の対策を目指すなら、常にこういったメッセージをはっきりと発信し続ける必要があります。

 このようなレゼルボア対策には、診断を精密化して実態を正確に把握していくか、実態を把握せずに絨毯爆撃的にワクチンを集団接種するかの、いずれかの方法が考えられます。薬剤耐性菌については、肺炎球菌とHibに対するワクチンの導入が、この問題の解決に一定の役割を果たしていることが、いくつかの研究で示されていますが、もちろんすべての耐性菌問題を解決できるワクチンはありません。

 ところで皆さんは、結核に対するBCGワクチンの有効性についてどのようなイメージをお持ちでしょうか?
 国際的には、現行のBCGワクチンは小児の髄膜炎などの重症化予防に有効(86%)であるものの、根絶を目指せるほど成人肺結核を予防する効果は高くないという理解が一般的です。しかし、ワクチンの有効性が本当に不足かどうかは、国や地域によって得られた結果に大きな差があったことから(インドはほとんどゼロで、イギリスは78%)まだ議論があり、さらにワクチンスケジュールを改善することで問題が解決するかどうか(少なくとも非蔓延国で)も、疑問として残されています。ワクチンによって獲得された免疫の持続期間が、まだはっきりと分かっていなかったからです。

 後者の疑問解決の一助となるデータを提供したのが、今回Lancet Infectious Diseaseに発表されたノルウェーでの研究結果(3)です。BCGが集団接種されていた時期(1948~1975年)に接種を受けた381,326人を41年または44年後にフォローアップし、非接種群(コントロール)と発症率を比較したところ、20年を過ぎると両者での差は有意でなくなったものの、接種後の肺結核予防効果は9年間で67%、10-19年間で63%でした。時間に比例してワクチンの効果は減衰することが明らかでしたが、20年間は60%以上の予防効果を発揮することが示されました。

 これまでBCGワクチンの持続効果を40年以上フォローした例は、アラスカで行われたたった一つの研究があるだけでしたので、ヨーロッパから大規模試験の結果が出たことには大きな意味があります。しかしこの結果の解釈には、適応する状況に対する考察が必要でしょう。

 日本ではBCGの集団接種が続けられていますが、結核の罹患率は10万人当たり17.7(2011年)と中蔓延国の位置にいます。移民の問題が大きくないことから、やはりワクチンの有効性は議論すべきと思われます。日本でも潜在性結核というレゼルボア対策としての、ワクチンまたは診断における技術革新が求められています。

文献
(3) Lancet Infect Dis. 2015 Nov 18. pii: S1473-3099(15)00400-4. [Epub ahead of print]
Duration of BCG protection against tuberculosis and change in effectiveness with time since vaccination in Norway: a retrospective population-based cohort study.
Nguipdop-Djomo P, et al.

参考
(pdfファイル) 最近の結核対策(PDF:1478KB) – 厚生労働省
www.mhlw.go.j

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