活性評価の方法
手指消毒剤製品のパンフレットをご覧いただくと、いくつかの試験方法とその結果が表やグラフで示されており、○○のガイドラインに沿った試験方法で、××に対して有効であると判定されました、などと書かれてあります。
このウェブサイトでは、それぞれの試験方法で何が言えて何が言えないか、皆さんに分かっていただきたいと思っています。最初に、試験(実験)というのは、あくまでもある特定の事実だけを確認することであり、医療現場や感染の全てを表しているわけではないことを、まずご理解頂きたいと思います。
Time-Kill test、ASTM E2315-03(in vitro殺菌試験)
実験法:(10mlスケールの場合)サンプル(例:アルコール消毒薬)10mLに、培養菌液0.1mLを加え、一定時間(例:15, 30, 60 秒)後に1mL取り9mLの反応停止液に入れる。
何が分かるか?:アルコール液(例:80%)に菌を入れて何秒でどのくらい死滅するか。
この方法で細菌数のリダクションが4ログ(手に付いた細菌数が1/1万になった)としても、手に付いた状態の細菌が消毒薬擦り込みによって同程度死滅 するとは限りません。
ただ、この方法でも生き残る数が多い細菌やウイルス等に対しては、アルコール消毒は効果がないということは言えます。
EN_14476_E_2012-10-22 (in vitro 抗ウイルス活性試験)
実験法(手指消毒剤の場合):
試験ウイルス Poliovirus、Adenovirus、Murine Norovirus
接触時間 30秒 および 120秒
負荷物質 BSA(ウシ胎仔血清)0.3g/L (clean condition) または 3g/L (dirty condition)
手順 負荷物質液1ml + テストウイルス懸濁液1ml + サンプル(例:アルコール消毒薬)8mL → 一定時間後に0.5mLの試験混合液を4.5mL氷冷反応停止液に混ぜて反応を止める。細胞培養してウイルスタイター(TCID50)を測定する。
何が分かるか?:試験ウイルスはいずれもノンエンベロープウイルスなので、この試験でログリダクションが大きくなければ、この消毒薬は効果がないということになります。
しかし、Murine Norovirusはヒトノロウイルスと違ってアルコールに感受性が高いことが知られています。
EN 1500 – 2013 (in vivo 手指上通過菌 殺菌試験)
実験方法:
18人から22人の健常ボランティアをランダムに2つのグループに分け、クロスオーバー試験する(コントロールと試験品グループを入れ替えて再テストする)。
ボランティアの手を決められた方法で洗浄・乾燥したのち、E.coliの培養液に手首まで5秒漬け(指を広げた状態で)、自然乾燥させる。
<サンプリング>
液体培地(TSB)に親指を含む2本の指を入れてこすり合わせることでサンプリング → 菌数カウント。
<試験>
コントロール イソプロパノール3mLを掌に載せて30秒間こすり合わせる。これを2回行い合計60秒間作用させる。
試験品 用量と作用時間は製造業者が決める。
<評価>
試験品のログリダクション(PP)はコントロールのログリダクション(RP)よりも、統計学的に劣らないことを確認する。(P=0.025)
EN 12791 (in vivo 手指常在菌 殺菌試験)
目的:手術前に手指の常在菌を十分殺菌する消毒剤として適当かどうか試験する。
実験方法:
<試験>
コントロール 60% イソプロパノール3mLを掌に載せて3分間こすり合わせる。途中乾いたらイソプロパノールを足す。
試験品 用量と作用時間は製造業者が決めるが、実際の数字を記録する。作用時間は最大5分以内にすることとする。
<評価>
消毒後手袋をはめ、3時間後の手指上の菌数を計測する。試験品のログリダクション(PP)はコントロールのログリダクション(RP)よりも、統計学的に劣らないことを確認する。(P=0.01)