9月の注目トピックス – 5モーメンツ、薬剤耐性
カテゴリー:手指衛生
2015/09/29
5モーメンツを実践するのに、どのモーメントを別に考え、どれを一緒にして一回と数えていいか、迷うことがありませんか?
論文(1)は、韓国やサウジアラビアでの院内MERSアウトブレークなどを考慮して書かれたものと思われますが(online 公開は5月)、5モーメンツの基本の考え方をもう一度勉強しなおすのに参考になると思いました。そこでこの論文を参考に、改めて5モーメンツの考え方の基本をおさらいしてみたいと思います。
まず患者ゾーン”patient zone”をはっきりと定義すること。これは患者自身と患者が頻繁に触る環境をいいます。したがって、2名の患者が同じところをよく触る環境は区別する必要はありません。また、たとえ患者のすぐ近くにあるものでも、医療者しか触らないようなものは、患者ゾーンには当たらないということをご理解ください。
しかし、たとえ複数の患者が近接した環境でも、2と3のモーメンツはそれぞれ必ず個別に考える必要があります。
たとえば一つのベッドに2人の患者さんが寝ている場合、最初の患者Aさんに触る前が1のモーメント(タイミング)、Aさんのバイタルを取って、次にBさんのバイタルを取るときには手指衛生は必要なし(ただし器具を共有する場合は器具の消毒をすること)。しかし、Bさんに点滴をする場合は、その前後に手指衛生(2と3のモーメント)が必要です。手袋をする場合は、手指衛生→手袋装着→処置→手袋脱装→手指衛生 という順番で行います。
もちろん日本の多くの病室のように、カーテンで仕切られて隣の患者さんが別のベッド回りを触ることがない場合は、個別の5モーメンツになります。
今月はこのほかに、薬剤耐性菌に関する報告で興味をひくものが2報ありました。
論文(2)は薬剤耐性のデータをまとめたCDDEP(Center for Disease Dynamics, Economics & Policy)の報告書です。
日本個別のデータが入っていないのが残念ですが、世界の状況をまとめて論じるのに有用な報告書だと思います。例えば、MRSAの分離率は順調に減少している地域が多いものの、オーストラリアでは増加しているということでした。また、ESBL産生大腸菌と関連菌の問題はヨーロッパできわめて深刻で、アジア11か国でも多いと報告されていました。
今後論文を読むときなどに、各国や地域の状況を理解するための良い参考となると思います。
The Lancet Infectious Diseasesにはスコットランド16年間の感染症対策とその影響を見る目的で、3つの病院とひとつのコミュニティー施設におけるMRSAの有病率を後ろ向きに解析した結果をまとめた論文が発表されました(3)。データは介入開始前の1997年から収集されていますが、その後次のようなキャンペーンが順次実施されました。手指衛生(2007年1月~)、環境衛生(2008年1月~)、入院時MRSAユニバーサルスクリーニング(2008年8月~)、そして抗菌薬適正使用(注1)(2009年5月~)。施設によってその実施程度と影響は異なりますが、病院およびコミュニティーにおける全体のMRSA有病数は50%減少しました。なかでも抗菌薬の適正使用の推進が非常に大きな効果を与えたことが明らかとなりました。
(注)スコットランドの抗菌薬管理(antibiotic stewardship)とは、4C(cephalosporin、co-amoxi、clavclindamycin、fluoroquinolone)使用の制限。
(1) The Journal of Hospital Infection October 2015Volume 91, Issue 2, Pages 95–9
The ‘My five moments for hand hygiene’ concept for the overcrowded setting in resource-limited healthcare systems
S. Salmon, D. Pittet, H. Sax, M.L. McLaws
(2)The State of the World’s Antibiotics, 2015, CDDEP, 15 Sep 2015
(3)The Lancet Infectious Diseases Published Online: 24 September 2015
Effects of national antibiotic stewardship and infection control strategies on hospital-associated and community-associated meticillin-resistant Staphylococcus aureus infections across a region of Scotland: a non-linear time-series study
Timothy Lawes, et al.