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感染症トピックス

2016年2月のトピックス - コリスチン耐性(mcr-1)の続報

カテゴリー:多剤耐性

2016/02/28

 2015年12月のトピックスで、コリスチンに耐性を与える新しい遺伝子mcr-1が報告されたことをお伝えしました。その後も、Lancet Infectious Diseases のCorrespondenceに続々と関連情報が寄せられています。以下箇条書きにまとめます。

(1) スイス:85歳男性からカルバペネムとコリスチン両方に同時に耐性の大腸菌を分離された。この菌は、blaVIM-1 カルバペネム分解酵素とmcr-1の両方を持っており、ほとんどのβラクタムとコリスチンに耐性で、それ以外にもクロラムフェニコール、ジェンタマイシン、テトラサイクリン、フルオロキノロンなど多くの抗生物質に耐性であった(1) 。
(2) フランス:ESBL陽性の菌株ストック(2005~2014年半ばにかけて家畜から分離)をコリスチン耐性についてスクリーニングしたところ、21%にあたる106株がmcr-1陽性であった。最も古いmcr-1陽性大腸菌は2005年に分離されたものであった。7株はblaCTX-M-1mcr-1が同じプラスミド上に乗っていた(2)。
(3) ドイツ:人と動物から過去に分離された577菌株の大腸菌全ゲノムを解析したところ、人から分離されたひとつの株はblaKPC-2mcr-1の両方を持っていた(3)。
(4) 日本:GenEpid-Jに登録されたグラム陰性菌のプラスミドデータベースを調べたところ(入院患者由来431、動物由来184)、動物由来の5つのプラスミドでmcr-1を確認したが、人由来のものには見られなかった。5つのすべてのプラスミドにおいて、他の耐性遺伝子の存在は確認されなかった。2000年から2014年にかけて動物から分離された大腸菌においては、1%(90株)のみがコリスチン耐性(>8mg/L)であった。このうちmcr-1を持っていたのは2株であった(4)。
(5) 中国:蘇州市三次救急病院で2013年1月から2015年11月までの間に分離された腸内細菌科(Salmonella spp、Pantoea agglomeransE. coliK. pneumoniae)でmcr-1遺伝子の存在を調べたところ2株の大腸菌と2株のK. pneumoniae合計4株が陽性であった。いずれもCTX-M-1もしくはNDM-5が共存しており、ひとつのK. pneumoniaeにはCTX-M-1、NDM-5およびMCR-1のすべてが存在していた。この株はイミペネム、メロペネムを含むほとんどすべての抗生物質への感受性を失っていた(5)。

 Eurosurveillance (6) には、チュジニアにおける調査結果が発表されました。2015年7月にチュニジア農場の健康な鳥から52の糞便サンプルを調べたところ、blaCTX-M-1mcr-1の両方を併せ持つ大腸菌が分離された鳥は、全体のは65%と高率であったそうです。そしてこれらの鳥はすべてフランスから輸入されたものでした。

 今回ESBL(基質拡張型βラクタマーゼ)とMcr-1(フォスフォエタノールアミン転移酵素の一種)を同時に持った大腸菌が、すでに臨床現場に存在していたことが明らかになりました。こういった大腸菌に効く抗生物質は非常に限られていたということです。
 臨床現場でコリスチンを使う機会はあまりないとはいうものの、プラスミド上に次々と新しい耐性遺伝子が追加されていく状況は、どこかで歯止めをかけなくてはなりません。

文献
(1) Lancet Infectious Diseases Volume 16, No. 3, p281, March 2016
Plasmid-mediated carbapenem and colistin resistance in a clinical isolate of Escherichia coli
Laurent Poirel, et al.

(2) Lancet Infectious Diseases Volume 16, No. 3, p281-282, March 2016
Co-occurrence of extended spectrum β lactamase and MCR-1 encoding genes on plasmids
Marisa Haenni, et al.

(3) Lancet Infectious Diseases Volume 16, No. 3, p282-283, March 2016
Colistin resistance gene mcr-1 in extended-spectrum β-lactamase-producing and carbapenemase-producing Gram-negative bacteria in Germany
Linda Falgenhauer, et al.

(4) Lancet Infectious Diseases Volume 16, No. 3, p284-285, March 2016
Investigation of a plasmid genome database for colistin-resistance gene mcr-1
Satowa Suzuki, et al.

(5) Lancet Infectious Diseases Volume 16, No. 3, p287-288, March 2016
Emergence of the mcr-1 colistin resistance gene in carbapenem-resistant Enterobacteriaceae
Hong Du, et al.

(6) Eurosurveillance, Volume 21, Issue 8, 25 February 2016
Impact of food animal trade on the spread of mcr-1-mediated colistin resistance, Tunisia, July 2015
R Grami, et al.

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