2016年6月のトピックス - CDCアラート 多剤耐性Candida auris
カテゴリー:多剤耐性
2016/06/30
2016年6月28日、CDCから米国医療施設向けに警告文書が配信されました。病原性が高く多剤耐性である、新しいCandidaの一種による医療関連アウトブレークの危険性があるので、注意するようにというものです。この菌種はもともと日本で最初に報告されたもので(2)、決して他人事ではありません。概要と解説をお送りします。
【ポイント】
Candida aurisは医療関連感染すると致命率が高く、アウトブレークを起こす可能性が高い新種の真菌で、3種の主要抗真菌薬全てが効きにくい多剤耐性株もある。Candida属の多種との鑑別診断も難しい。
【解説】
この真菌は帝京大学グループによるサーベイで最初に発見され、Candida auris と命名されました(2)。都内病院で入院中の患者の外耳道から分離されたもので、この時点では病原性があるかどうかは不明でした。この報告の後、韓国、インド、南アフリカ、そしてクエートで感染症の報告が相次ぎました。論文にはなっていないものの他にもコロンビア、ベネズエラ、パキスタン、英国でも同定されているということです(1)。
なぜ最近になって報告が増加しているのか分かりませんが、過去のサンプル調査で見つかっている例があることから、今まで知られておらず、見過ごされていたことも考えられます。
これまでの感染事例で言えるのは、医療関連感染で最も報告が多く、特に数週間以上の長期入院に強く関連しているということです。感染部位は、血流、創傷そして耳炎ですが、尿路や気道から分離された例も報告されています。感染のリスクファクターは他のCandida spp.と同様で、手術直後や抗菌薬の使用、CVカテーテルの挿入などが挙げられます。また抗真菌薬治療中に他のCandidaと混合感染となった事例も報告されています。
菌株コレクションの薬剤耐性をCDCが調べたところ、ほとんど全部の菌株はフルコナゾールに高度耐性で、半数以上がボリコナゾール耐性、1/3がアムホテリシンB耐性(MIC>2)、そしていくつかはエキノキャンディン系に耐性でした。抗真菌薬の主要な3系統、アゾール系、エキノキャンディン系そしてポリエン系の全てに耐性を示したものも数株あり、治療の選択が非常に限られる可能性があります。
鑑別診断が難しいことも特徴のひとつです。見た目はCandida haemuloniiに良く似ており、APIやVITEK-2といった市販の検査キットでは近縁種と鑑別できないということです。このことから臨床検査の場面でC.aurisをC. haemuloniiやSaccharomyces cerevisiaeと誤診断した例がありました。また、臨床検査のラボの中にはCandidaを種レベルまで同定できないところがあり、そういったところは他の種も含めてCandida spp.とだけ診断していたそうです。
今のところ確定診断するには、MALDI-TOFMSか、PCRしかないということです。
これまで分かっているところでは2カ国で医療施設におけるアウトブレークが確認され、それぞれ感染者・保菌者合わせて30名以上であったことが分かっています。これらは施設内で同じクローンが伝播したことが示唆されており、施設内で伝播する大きなアウトブレークに至る可能性があります。本真菌の感染が確認された場合は、隔離と標準・接触予防策を講じることが重要ですが、診断が出来ない場合も十分考えられますので、日ごろから【病原性の強いカンジダ】もありうるのだということを念頭におき、標準予防策を徹底していただきたいと思います。なおCandidaは胞子を作らない真菌なので、エタノールによる消毒が効果的です。
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